うつ病の薬物療法

抗うつ薬は、私たちの気分や感情に関係している脳内情報に伝達物質のバランスを調整することによってうつ病の辛い症状を和らげます。

はじめてうつ病の薬を飲むことになった方のなかには、「心の問題、気持ちのことなのに、なぜ薬なんだろう? 」と思う人も少なくないようです。

実際に質問されることもよくあります。医師に開かなくても、なんとなくわからないと思っている人もいるかもしれません。

うつ病というのは、気分が沈んだり、なにもおもしろくなくなったり、「気分の変調」が起こる病気です。医師が「気分」というのは、「持続的な感情」という意味です。

一時的な「うれしい」やけいこうとくち上う「悲しい」ではなく、ある期間続く感情の傾向や特徴のことです脳科学の発達によって、人間の気分や感情の変調は、私たちの脳神経の情報をやりとりするときに使われる、脳内情報伝達物質という化学物質のバランスと関係していることがわかってきました。

うつ病の治療では、おもに抗うつ薬という薬を使います。この抗うつ薬によって、脳神経に働きかけて、脳内情報伝達物質のバランスを整えて、うつ症状を改善しようというのが、うつ病の薬物療法の基本的な考え方です。

患者さんのなかにはときどき、そんな薬を飲んだら自分が自分でなくなってしまうのではないかと心配する人がいますが、抗うつ薬はそれほど強い力を待った薬ではありません。

いま説明したように、脳内物質のバランスをもとに戻し、現在起きているつらい症状をおさえて、やわらげようという目的の薬です。

抗うつ薬には、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI、SNRI などいくつかのタイプがあります。それぞれに特徴があり、それなりの副作用もあります。

医師はそれぞれの患者さんに合わせて、期待できる効果、起こるかもしれない副作用、むりなく飲み続けられるかどうかなどを考えながら、薬を処方しています。医師の説明と指示をよく聞きながら薬を飲んでいけば、心配するようなことはありません。

薬によって症状が軽減できれば、カウンセリングによる精神療法にもゆとりを持って取り組めるでしょう。精神療法で気持ちが落ち着いてくれば、薬の効果があがる可能性も高まります。このように、薬物療法と精神療法、それに必要に応じて環境調整も加えて、3つの治療をバランスよく進めていくことが、うつ病の治療ではたいせつです。

薬の一般名と商品名

医療の場で使われる薬には、「一般名」と「商品名」という2 つの呼び名があります。一般名は、薬剤として使われる物質そのものの名称です。

医学論文など、医師や医学者どうしが議論や情報交換をするようなときには、物質そのものの名前である一般名を使うのがふつうです。

商品名というのは、製薬会社が、そのような薬剤となる物質を商品化して、病院や薬局に納入し、実際に患者さんが使用する薬につけられている名称です。

同じ一般名に対して、複数の商品名のものがあることもあります。この本では、先に一般名を紹介して、そのあとの( ) 内に商品名を書くという表記方法をとっています。たとえば「アミトリプチリン(トリブタノール)」とあれば、アミトリプチリンが一般名トリブタノールが商品名です。