年代別うつの症状(老年期)

老年期はうつ病にかかりやすい年代でもあります。体のさまざまな機能低下に加えて、親しい人との別離などが、争えてきます。これらが心の不調を引き起こしやすいのです。

妄想を伴い、自殺を考えることも

年をとるにしたがい、老化が進み、体が思うように動かせなくなったり、あちこちが痛くなったり、視覚や聴覚も衰えてきます。

また身体機能の低下とともに、病気にもかかりやすくなってきます。また、退職などによって生活環境が大きく変わるときでもあります。

加えて、この年齢になると、長年連れ添った妻や夫に先立たれたり、親しい友人が亡くなることも多くなりますので、喪失感や孤独感が深まってきます。これらのいくつかのことが重なって、生きがいをなくしてしまう人もいます。このような老化、別離などは、心にも大きく影響します。ささいなことで精神のバランスをくずしてしまいがちです。

その結果、うつ病になってしまう同齢者が多く見かけられます。高齢者の精神疾患の中で、最も多くみられるのはうつ病であるといわれています。老年期のうつ病の症状では、次のような特徴が指摘されています。

  • ほかの世代の症状にくらべると、著しい憂うつな気分はそれはど前面に出ることがない
  • ことさらいらいら感や焦燥感、不安感などが生じやすく、このため落ち着かない様子をみせたり、じっと座っていることができなくなったりする。
  • ちょっとした体の不調が気になって、それにとらわれてしまう、聖丸症状が目立つ。精神面よりも体の症状のはうが多くみられる傾向がある。
  • 特に痛みや腹部の不快感を訴えることが多く、その訴え方もおおげさで、ヒステリックな感じさえする。
  • 以上のような体の症状について、つらさを訴える傾向がある。
  • がみがみ口うるさくなる。
  • 食欲が低下して、体重も減少する。
  • 妄想を伴うことがある。
  • 体力が低下するので、横になっている

ことが多くなり、その結果、運動不足になってさらに体力が低下する。それとともに気分も落ち込み、それが悪循環となっていく。

以上のように、高齢者のうつ病の症状は、憂うつな気分よりも、体の不調や痛みを口うるさく訴えたりすることが多いため、ちょっとみただけではうつ病とは思えないことが多いといわれます。

また、妄想を伴うこともあるのが、高齢者の症状の特徴です。主に「被害妄想」「罪業妄想」「心気妄想」、あるいは「貧困妄想」といった妄想です。

また、自殺を考える人が多いことも心配です。高齢者の場合は不安や焦燥感が強いだけに、実際に自殺をはかってしまうこともあるので要注意です。

老年期うつ病の発症に関わる要因

老化に伴う身体的変化
  • 脳内アドレナリン、セロトニン、ドーパミンの合成能の低下
  • 感覚機能の低下
  • 運動機能の低下
  • 性機能の低下
  • 身体疾患の合併
  • 感冒、下痢、打撲
メランコリー親和型性格
  • 執着気質
  • 強迫的、まじめ、徹底的
  • 無気力・内向的性格傾向
家庭内力動関係の変化
  • 配偶者・友人の喪失
  • 社会的地位の喪失
  • 孤立的環境
  • 経済的問題

うつ病か認知症かわかりにくい

高齢者のうつ病を考えるうえで気をつけなければならないのは、うつ病の症状と「認知症」の症状とが非常に似ていることです。

先にあげた症状の特徴とはいささか異なりますが、もうひとつ高齢者に特徴的な症状があります。口数が減り、行動や反応が鈍くなるなどの症状のほかに、物忘れがひどくなったり、著しい場合には、いま自分がどこにいるのかがわからなくなることさえあります。実は、これらのうつ病の症状は、「認知症」と非常によく似ているのです。このため、うつ病の場合は「仮性痴呆」と呼ばれます。

自分がどこにいるのか、あるいはまわりにいる人などを正しく認識する能力を「見当識」と呼びますが、この機能がきちんと働かない状態を失見当識(見当識障害) といいます。

これはうつ病ばかりでなく、実は認知症によくみられる症状でもあります。また、記憶障害の症状も、双方にみられます。認知症と仮性痴呆との見分けはむずかしいとされています。

ただ、うつ病の場合、記憶障害は比較的急激にあらわれるようです。また、認知症では病状が進んでいきます。それにしたがって、自分が病気であびょうしきるという自覚、つまり病識も失われていきます。これに対し、うつ病では症状の進行はありません。また記憶力の低下などにたいへん悩み、そうした症状を隠そうとせずに、むしろ過剰ともいえるような態度で訴えようとする傾向がみられます。仮性痴呆は、うつ病が治ってしまえば、症状も改善していきます。「仮性」の名がつくゆえんです。

認知症予防はこちら。

年代別うつの症状(中年男性)

中年男性の場合

中年期というのは、長い人生の中でも、最も活発な時期といわれます。それだけに、さまざまな出来事が起こり、それがストレスとなって、うつ病になるケースがみられます。

内因性のうつが多い

50歳前後になると、身の回りではさまざまなことが起こってきます。仕事では十分なキャリアを積んで、それにつれて責任の重い立場に立っていきます。

同時に、仕事はますます忙しくなってきます。昇進があったり、マイホームを手に入れたりすることもあるでしょう。

一方で、家庭では子どもたちが成長して、進学や就職、恋愛問題などに悩む、むずかしい年ごろにもなってきます。また年齢的にみても、老親の介護という問題も大きくのしかかってくるころです。体の面や生理の面でも大きく変化するときです。がんとか糖尿病、高血圧などさまざまな生活習慣痛が気になり始めます。気になるばかりでなく、そうした病気が健康診断で見つかったりもします。

この時期は女性でいえば更年期にもあたるわけで、男性であっても精神面でさまざまな影響が出てくる可能性があります。記憶力や体力の衰えを感じるようにもなり、自分の老化を意識せざるをえなくなるのも、この年齢です。

さらに50代も後半になると、子どもたちが独立したり、定年が目の前になるなど、そろそろ先が見えてきて、意識の面でも大きく変わってきます。最近では、子どもの独立などによって、夫婦でともに築いてきた目標が見失われ、離婚してしまうケースすらみられます。

職場、仕事の悩みが引き起こすうつ

ざっと見渡しても、50代の男性にはこのような身の回りの変化や、心配事、悩み事がたくさん出てきます。こうしたことがストレスとなり、それがきっかけとなってうつ病にかかりやすくなると思われます。この年代のうつ病は、典型的な症状があらわれるのが特徴で、原因やきっかけがわからない「内因性のうつ病」が多いことが指摘されています。典型的なうつ病の症状は、以下のようなものです。

  • 憂うつ
  • 気がふさいで、気分が晴れない
  • 強い不安感、焦燥感がある
  • 悲しい、ツライ、苦しい
  • 不安を感じる
  • マイナス思考に陥る
  • だるい
  • 食欲不振
  • 死を考える
  • 下痢または便秘
  • 頭痛・肩こり

精神面の症状のところでも述べましたが、最近は中高年の自殺の増加傾向が指摘されています。その原因のひとつにはうつ病があるといわれます。長時間労働などで過労で精神障害を起こし、自殺にした例も増加しており、これも中高年に多いことが特徴です。

またうつ病になると、好きだった酒も飲めなくなることが多いのですが、逆にふえてしまうこともあります。憂うつな気分を晴らそうと酒を飲むのですが、一時的には気分がよくなったと思っても、酔いが覚めると以前よりももっと落ち込んでしまい、そこでまた飲んでしまう、という悪循環を繰り返しているうちに、酒がやめられなくなり、アルコール依存症になることもあるので、要注意です。アルコール依存症はこちら

年代別うつの症状(思春期~青年期)

思春期から青年期の場合((疲れやすく、ひきこもったり、暴力的になったりする)

思春期から青年期にかけては、人間形成のうえで重要な時期で、体の面でも心の面でも変わり目にあたります。このため、心の病気になりがちです。

思春期・青年期のうつ病の特徴

思春期は精神的にも不安定になりがちです。ストレスにも弱くなり、心が揺れ動きやすくなります。このため、ささいなことで必要以上に不安になったり、気にしたりします。

身の回りに起こることに過敏に反応するためです。思春期のうつ病の症状としては、基本的にはおとなの症状と同様で、頭痛や腹痛、食欲不振、睡眠障害などの身体的症状もみられます。ただし、憂うつな気分や自責的な傾向はあまり目立ちません。

むしろ疲れやすい、何をするのもおっくう、集中力がなくなるといった症状が多くみられます。まれに幻覚や妄想があらわれることもあります。

このために、不登校や、いわゆる「ひきこもりの状態になることもあります。また、ささいなことから怒り出し、攻撃的になり、暴力をふるうような問題行動を起こすことがあるのも、このころの症状の特徴です。

ただし、こうした暴力やひきこもりのような問題行動については、その背景にうつ病があるのか、ほかの心の病気でそのようになるのかの判断は非常にむずかしく、注意を要します。

しかも、思春期の子どものうつ病では、長い時間の経過とともに、ほかの心の病気に変わっていくこともあり、慎重な判断が求められています。

10代後半から20代にかけては、受験や就職、結婚など、人生の大きな節目や試練を経験する時期で、そうした変化の中でうつ状態やうつ病となることが多い年代でもあります。

受験生括の苦しさは多くの人が経験していますが、そのプレッシャーはたいへんなもので、そこから不安やあせりなどの気持ちにとらわれ、うつ状態になる若者が多くみられます。

また、就職して社会に出ると、これまでの環境とはがらりと変わります。人間関係も、主に友人関係中心だった学生時代とは異なり、職場や仕事関係の人たちとの対人関係のむずかしさを経験することになります。

特に上司との関係や同僚との折り合いがうまくいかなかったりして、悩むことも多くなります。自分がいだいていた仕事や会社のイメージと違ったりして、意気消沈してしまう若者の例も見かけられます。

いずれにしても、就職して社会に出るということは、人生の一大転機であることはまちがいなく、それだけに身の回りに大きな変化が起こり、それが心に影響を及ぼしたりします。

思春期のうつにどう対応するか

年代別うつ病の症状(子供)

子どもでも、うつ病ではないかと疑われるケースがみられます。ただ、自分の気持ちをうまく伝えられないために、いらだって、うつ病にはみえないことがあります。子供の場合、いらいらしたり、反抗したりするのが代表的な症状です。

子どもの行動や身体症状に注意する

子どもも、うつ病になるものでしょうか。もともと、うつ病は、性格とか人格が形成されてからの病気だと考えられていました。

しかし、現実には、うつ病ではないかと疑わせるような症状をみせる子どもがいることも確かです。したがって、子どもにはうつ病はないとは言いきれません。

ただし、小さい子どもの場合は、言葉をはじめ表現力が未熟ですから、診断が非常にむずかしくなります。一般に、子どもの心の病気は、家庭環境や親子の関係が深く影響しているといゎれています。特に母親との問で、十分な愛情が注がれていないと、子どもは不安になり、心の不調があらわれてくるということがよく指摘されます。

また、小学校に通うようになると、親子関係ばかりでなく、学校生括の中で友達とのトラブルやいじめなどがあったり、先生とうまくいかなかったり、加えて成績の問題などが起こるようになると、それらが憂うつな気分を招くようになります。

受診をいやがる場合は

子どものうつ病の症状は、おとなの典型的な症状のような形では出ないといわれます。いらいらしたり、問題行動を起こしたりするケースが多いのです。

表現力がないので単純な訴え方に

子どもは、自分の心がいまどのような状態にあるかを、言葉ではうまく表現できません。憂うつな感じや億劫な気持ちを、おとなにうまく伝えることができないのです。

そのため、ちょっとしたことで感情的になったり、態度が反抗的になったりします。それが体の不調としてあらわれることもあります。

注意しなければならないのは、正確にごい表現するだけの語彙が少ないので、「おなかが痛い」とか「頭が痛い」という、きわめて単純な訴え方をしてしまうことです。

おとなは、それを言葉どおりに受けとってしまい、子どもの本当の気分を見すごしかねません。学校に行きたがらなくなり、長く休む、いわゆる不登校なども、うつの気分のひとつのあらわれと考えられますので、注意する必要があります。もちろん、これらの症状は、その背景にあるのはうつ病ばかりとはいえず、ほかの心の病気についても考える必要があります。

うつ病 症例5「漢方薬の処方と治療」

大黄(だいおう)という生薬には、瀉下(しゃげ)作用があることがよく知られている。しかし、案外これが向精神薬的な作用をもっていることを知っている人は少ないかもしれない。

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)や大承気湯(だいじょうきとう)という漢方薬の名に含まれている承気(じょうき)には気を巡らすという意味があるのだが、大黄(だいおう)や芒硝(ぼうしょう)が単に瀉下(しゃげ)作用だけでなく、心を意味する『気』や精神にも作用するという薬効にもとづいて名付けられたのだ。

数年前に私のところで診察した50代男性の患者は、他の病院で診てもらっていた頃から、向精神薬を数多く処方されていた。その患者は「どうしても頭がぼーっとして、思いどおりに体を動かすことができない」と訴えていたのだが、その行動を緩慢にしていたのは、いくつも服用している向精神薬のせいでもあったのだろう。とりあえず、現在のんでいる昼の薬の一部を減らしてみようと考えた。薬を減らしてからは眠気が減り、何かをするにも集中できるようになったのだが、しばらくすると、また調子が悪くなってしまった。

その後、便秘や腹痛もあったため、患者に大承気湯(だいじょうきとう)の処方を加えてみたが、結局、そのときはうまくいかなかった。

漢方薬にしろ、西洋薬にしろ、患者からの訴えが増えるに連れ、つい薬の種類も量も多くなってしまいがちだ。薬に頼るのが好きな我々日本人の性格が、さらに拍車をかけているのだろう。

漢方ではさじ加減という操作ができ、薬の処方に加減ができる。しかし、最近ではエキス剤が多いため、加法はできても減法ができないのだ。西洋薬の場合は錠剤が多いためにいずれも簡単だが、病気の進行に合わせ薬も増えていく傾向がある。

これは、日本の現代医学にきちんとした処方学が無いことに起因している。日本の診断学は互いに共通点があって、テーブル上でのディスカッションができるが、処方学のことでこういったことは、まず無い。つまり、現状では、薬剤の処方については個々の医師の裁量に任されているのだ。私にとって大切な参考書は、現在でも先輩方の処方である。

漢方薬とうつ病の関連ページはこちら。

漢方薬を使ったうつ病の治療ではなかなかうまくいかないこともありますが、うまく治療がすすむ例ももちろんあります。

サラリーマンで車関係の大きな会社に勤めている、40代半ばの男性、Aさんの話です。

うつ病だと診断されてから三年が経つというAさんが、ある年の秋、「いまひとつ治療がうまくいっていない」ということで、漢方薬の治療を希望して、私の病院にやってきました。

話しを聞くと、「治療の途中に一年間休職してしまったが、現在ではなんとか仕事をこなしている」ということでした。しかし、Aさんは続けて、「まったくやる気が出なくて、仕事も毎日仕方なくこなしている状態なのだ」と言いました。

Aさんは、比較的大柄な男性で、症状としては、動悸が強くて、すぐにイライラする、目覚めが悪く、午前中は気分がスッキリしないことが多いのです。加えて、疲れやすくて体がだるく、耳鳴りや軽い便秘もありました。

脈をみてみると比較的力のある実脈で、本来ならば風邪をひきにくい体質だと考えられます。Aさん自身も、「体の疲れはあるがそんなに風邪もひかず、自分でもそれほど弱っているとは思えないのだが、なぜか疲れがとれない」と言っていました。

こういった場合には、心の病気に焦点をあてて謎を解きながら治療をすすめていくのですが、Aさんは既にうつ病と診断されているので、私は治療に専念することにしたのです。

Aさんの場合、舌診では、舌質は厚く、舌の真ん中がやや黄色がかった厚い苔(こけ)で覆われていました。このことから、体が水毒体質で、新陳代謝が悪く余分な水分が溜まりやすい、病気が長い経過をたどっていることが推察できました。お腹には比較的力があって、全体像から肉体的にはそれほど問題はないと思いました。

Aさんが持参していた薬は、抗うつ剤が2種類、安定剤が1種類で、うつ病の治療薬としては、スタンダードなものでした。その薬はそのまま続けて服用してもらい、新たに、柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)香蘇散(こうそさん)のエキス剤を、常用量の半量にしての併用で処方しました。

それから2週間後、Aさんは、「先生、気分がいいよ!」と言いながら、とても明るい表情で、診察室に入ってきました。以前は調子が悪かった午前中もスッキリするようになり、寝つきが良くなっているということでした。

以来、この1年ほどは、基本的に同じ処方をしています。

うつ病 症例3「異常な肥満は水毒の兆候」

クリニックを開いている私のもとへ、知り合いの薬剤師から1通の手紙が送られてきた。手紙の中身は彼女のお兄さんについての相談だった。その手紙によると、彼女のお兄さんは、彼女が薬剤師になる前から「うつ」を発症し、もう20年以上に渡り治療をしているということだった。

彼女のお兄さんは40代。長い治療歴の中でしばしば主治医が代わり、良い治療を受けているとは思えないのだが、これといった良い方法も思いつかずにいるままだという。入退院を繰り返しているうつ病と神経症の例だが、私が漢方講座を開いていることもあり、あらゆる可能性に賭けてみたいという家族みんなの藁をもつかむ思いから、手紙を書いてきたのだ。

それから間もなく、大柄な男性が私のところにやって来た。身長174㎝、体重85㎏で、肥満体型だ。問診票には、「20年前から再三に渡って精神科に入退院を繰り返している。気力が無く、何もしたくない。いつも緊張感がある、腹部が突っ張る感じがする。」などと書いてあり、抗うつ剤やその他の向精神薬、脳循環改善薬、昇圧剤など、いくつもの薬を持参してきていた。

日常生活は、夜更かしをして朝は眠っていて午後になってから目覚めるというパターンが続いているという。毎日がなんとなく過ぎていき、心の内ではイライラが募って気持ちのやり場がないと訴え、表情もうつろだった。

漢方の立場から見ると、彼の太った体には必要以上に水分がたまっていて、思考も行動もうまく作動しないという、いわゆる水毒の兆候が明らかに見てとれた。まず、この点から改善していけば、治療の糸口を見いだせるのではないかと私は考えた。九味檳榔湯(くみびんろうとう)という、脚気(ビタミンB1欠乏症)や下肢のむくみ・だるさ、こむら返りなどに用いる処方があるのだが、これに「水滞」を改善するための処方である五苓散(ごれいさん)を加えると、より効果的な水毒治療ができるのだ。

肥満が心の面にも良くないことはしばしば経験するのだが、彼の場合、水毒による肥満と考えられた。彼のように昼間にもよく眠り、運動不足で、好きなように飲食を続けていれば、どうしても締まりのない肥満になってしまう。食事の配慮をしながら治療に専念するよう話したが、漢方薬にどれくらい反応するかは不安だった。

それから2週間後、彼はあまり症状の変化がないと、再びクリニックへやって来た。下腹部がつっぱって苦しく、便通が悪いというのだ。腹部の診察の結果から、大柴胡湯(だいさいことう)を併用したが、1ヶ月経っても反応が鈍かった。

以前処方した九味檳榔湯(くみびんろうとう)はそのままにして、大柴胡湯(だいさいことう)から柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)に変更した。緊張感や不安感がとれないので、こちらの方が良いのではと考えた。すると、この処方から2週間後には、腹部のつっぱった感じがとれて便通が良くなり、気分も良くなってきて、彼の顔にも軽く笑みが見られるようになった。

うつ病についての関連ページはこちら。

うつ病 症例2「私のうつの話」

私は40代の主婦です。少し前の話ですが、三週間近くのあいだ、夜中に目が覚めてしまい、家事をするのがおっくうになっていました。パートで働いてもいたのですが、それも辞めようかと迷っていました。

家族は、公務員をしている夫と、普段は寮生活をしていて大学受験を控えている長男、近くの高校に通う長女、夫の両親の6人です。夫は公務員とはいえ、対外折衝の多い職場で帰宅する時間が遅いので、あまり話しを聞いてもらえる時間がありません。夫の両親はとても快活明瞭で、特にトラブルなどはありませんでした。

私は、長男の大学受験が気になっていて、さらに、長女に腰痛がありそれがいつまで経っても良くならないことが、とても心配でした。長女は、階段から足を踏み外して腰を強打してからなかなか腰痛が治らず、いくつか病院にかかっても診断や治療の効果がはっきりしないのが、いつも気がかりだったのです。

当時、かなり気が焦っていたこともあり、調子が悪くて近所のクリニックを受診しました。そこで、先生に精神安定剤と柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)という漢方薬を処方してもらいました。しかし、睡眠がじゅうぶんにとれずに朝も早くに目が覚め、常に仕事のことばかり考えていたため、それから一週間も経たないうちに、私はまたそのクリニックを受診したのです。

勤務先の上司からは「しばらく静養するとよい」というあたたかい言葉をかけてもらっていましたが、私自身は、仕事を続けるべきか、それとも辞めたほうがよいのかをずっと迷っている状態でした。

クリニックでは、うつの状態だという診断を受け、抗うつ剤を処方されました。一週間ほど経つと、明け方の胸の苦しさや動悸が少し軽くなり、夕方になる頃には普段と同じくらいに気持ちが落ち着いてきました。仕事のほうは、やはりしばらく休養することにしておきました。

これで少しは落ち着くのかなと思っていたのですが、数日後に再びクリニックを受診することになってしまいました。それは、腰痛のある娘がスキーに行くことになり、それが気になって耳鳴りがするようになったからです。処方された抗うつ剤をそのまま飲んでいてもよいのかという事も心配でしたが、先生からは続けて服用するようにと言われました。

そして、私の症状が落ち着いてきたのは、初めにクリニックを訪れてから一ヵ月を過ぎた頃でした。耳鳴りはまだ少し残っていましたが、家事はなんとかできるようになり、さらに一ヵ月後くらいには、外出ができるようになったのです。その後は、クリニックへ薬をもらいに行くだけとなり、落ち着きを取り戻しました。

うつ病 症例1「不眠、だるさは危険信号」

最近はストレス社会といわれるほどストレスが蔓延しており、大人から子供までストレス過剰の時代になってしまいました。子供たちの登校拒否や家庭内暴力、また受験戦争などの社会的現象は、家庭の不和や企業戦争といった大人の社会の縮図ともいえます。いずれにせよ、この蔓延したストレスを乗り切らないと情報社会である現代を生き抜いていくことは難しく、そういった意味では、現代は『うつ』の時代なのかもしれません。

40代、50代の中高年といえば、働き盛りの年代です。若い人から、他人としのぎを削ることにも全く違和感がないくらい生活感覚が麻痺していると指摘されたとしても、それが納得できずに受け入れられません。団塊世代の前後も含めた自分たちの青春時代は、周りの人たちと何か同じ事をしていないと落ち着かなかったものです。今の若い人たちは小さな時から個人の考えを大切にする感覚の中で育ち、そういったことが習慣となっていますが、村社会的な集団にうまく適応できない人の場合、中高年でも若い人でも、企業や組織の中から取り残されていきます。

もともと人間関係が器用ではない人は、あるとき、何かのきっかけで『うつ』の状態に陥ります。俗にノイローゼ(神経症)といわれますが、実際には、うつ病と神経症を区別するのはなかなか難しいもので、神経症として治療を始めてもうつ病の姿が見え隠れすることがあります。そして、一定の時間が経過すると、徐々にその病気の状態が浮かびあがってくるのです。

例えば、夜眠れないのに朝も早く目が覚める、わけもなく体がだるい、思考力が鈍って仕事が思うように進まない、こんな症状が出てきて本人の気持ちがますます落ち込んでいくとすれば、これはうつ病の危険も考えられます。ただ、うつ病の治療はとても進歩していて、抗うつ剤は副作用が少なくて効果がみられるものが開発されているといいます。

自分も仕事をしていると気分がうつになることがあるのですが、時が経ち気がつけば、知らないうちに消えているので、この程度ではうつとはいわないと思いますが、人は誰でも、大なり小なりうつ病になる可能性があるのです。

うつ病が生真面目な人間の延長線上にあるものと考えれば、うつとそうではないものとは大差がありません。しかし、うつの場合、日常生活に支障をきたすことが多く、しかも周りの人が善意で励ましてしまうと厄介なことになります。生真面目な人がうつには多いので、励ませばそれに悩み本人はかえって落ち込んでしまい、周囲も混乱することになるので、激励は禁物です。

自分の浅い経験でも、うつ病の人との交流にはとても気をつかいます。繊細な心を持ち、他人を決して傷つけないようにする言動には、親しみが持てます。うつの病態を理解していれば、怖がらずに済むし余計な心配をすることもありません。こういったことがわかってきたのは、自分の周りにうつの人が増えてきて、それなりのつき合いをしていくうちに教えられることも多く、冷静な目で見られるようになったからです。うつに対しては専門的な知識が要求されますが、よく観察していれば、それほど難しいものではないのです。

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うつの経験を今後に生かす

うつ病を経験すると、いろいろなものの見方が柔軟で幅広くなります。それを今後に生かしてこれからの人生を豊かにしていってほしいと思います。

うつという体験は、本人にとってつらく苦しいものですし、まわりの人たちも心を痛めます。たくさんのうつ病の患者さんを見てきた本音をいえば、できればそういう苦しい思いをしないですめば、どんなにいいだろうという気持ちがあります。

ただ、人の一生は、楽しいことばかりでなく、なにかつらい思いもしなければならないようにできているらしいのです。それならば、つらい経験も、今後に生かしていくことを考えたほうがいいのだろうと思います。実際に、うつの体験を通して学べることがたくさんあります。はばそのひとつは、自分自身について、幅の広い見方ができるようになることです。

強いところも、弱いところも、よくわかるようになります。ふだん私たちは、自分の弱いところから目をそらしていることが多いですし、持ち味や長所にも意外と気がつかずにいます。しかし、どちらについても、バランスよく見ることができるようになります。まわりの人を見る目も違ってきます。

なにもつまずきを知らない人は、どうしても人に対する思いやりが不足しがちです。うつというつらい思いをした体験が、ほかの人に対する気配りややさしさを豊かにします。同じ人間のなかでも、いろんな気持ちや感情が育ったり静まったりしてすなおいるんだということを、素直に見ていくことができます。

ものごとや人間関係に対する見方も、柔軟になります。自分がいま直面している問題を具体化して、解決策を探したり、別の見方を試みたり、相手をきちんと認めたり、少々困ったことがあってもあわてずに取り組んだりということが、自然な形でできるようになります。

手を出さずにじっと見守る、機会がくるのをゆっくり待つという息の長いものの見方が育ちます。相手を信じ、自分を信じて、あせらずに少しずつ前に進んでいくようなスタイルも身につきます。なかでも、人間の弱いところや困ったところもやわらかく受け入れながら、先を急がずに、よいところを見つけて認めていくという姿勢は、生き方や人間関係をとても豊かにしてくれます。

これからのあなたが、うれしいことや楽しいことにたくさん出会い、実り多い日々を送ることを、心から期待しています。