うつの経験を今後に生かす

うつ病を経験すると、いろいろなものの見方が柔軟で幅広くなります。それを今後に生かしてこれからの人生を豊かにしていってほしいと思います。

うつという体験は、本人にとってつらく苦しいものですし、まわりの人たちも心を痛めます。たくさんのうつ病の患者さんを見てきた本音をいえば、できればそういう苦しい思いをしないですめば、どんなにいいだろうという気持ちがあります。

ただ、人の一生は、楽しいことばかりでなく、なにかつらい思いもしなければならないようにできているらしいのです。それならば、つらい経験も、今後に生かしていくことを考えたほうがいいのだろうと思います。実際に、うつの体験を通して学べることがたくさんあります。はばそのひとつは、自分自身について、幅の広い見方ができるようになることです。

強いところも、弱いところも、よくわかるようになります。ふだん私たちは、自分の弱いところから目をそらしていることが多いですし、持ち味や長所にも意外と気がつかずにいます。しかし、どちらについても、バランスよく見ることができるようになります。まわりの人を見る目も違ってきます。

なにもつまずきを知らない人は、どうしても人に対する思いやりが不足しがちです。うつというつらい思いをした体験が、ほかの人に対する気配りややさしさを豊かにします。同じ人間のなかでも、いろんな気持ちや感情が育ったり静まったりしてすなおいるんだということを、素直に見ていくことができます。

ものごとや人間関係に対する見方も、柔軟になります。自分がいま直面している問題を具体化して、解決策を探したり、別の見方を試みたり、相手をきちんと認めたり、少々困ったことがあってもあわてずに取り組んだりということが、自然な形でできるようになります。

手を出さずにじっと見守る、機会がくるのをゆっくり待つという息の長いものの見方が育ちます。相手を信じ、自分を信じて、あせらずに少しずつ前に進んでいくようなスタイルも身につきます。なかでも、人間の弱いところや困ったところもやわらかく受け入れながら、先を急がずに、よいところを見つけて認めていくという姿勢は、生き方や人間関係をとても豊かにしてくれます。

これからのあなたが、うれしいことや楽しいことにたくさん出会い、実り多い日々を送ることを、心から期待しています。