気分が沈むと自分の行動や感情のコントロールがつきにくくりますし、身のまわりのことが思うようにならないと気分の落ち込みが強くなります。
自分の行動や感情についての「コントロール感覚」と、気分の落ち込みの問にも、深いかかわりがあります。自分の行動についてのコントロール感覚が失われると、それが強いストレスになるのです。
私たち医師のパートナーであるナースの世界で、数年前、燃え尽き症候群(バーンアウト) が大きな話題になりました。慢性疾患の高齢者や、死期の近い患者さんが多い病棟に勤務するナースが、誠意をつくしてケアにあたっても、患者さんは次々と亡くなつてしまい、無力感から心身ともに疲れきってしまうために、このような状態になりやすいというのです。
死期を迎えた患者さんへの看護をターミナルケア(終末期医療) と呼びます。そのような場面では、その人らしい最期に向けた援助がたいせつだという考え方が、いまでは多くの医療者の経験によってわかっています。
しかし、そういう医療現場で働くナースが、一生懸命やっても助けられないという考えにとらわれてしまうと、うつ状態を強めてしまいがちです。
企業や家庭でも、似たようなことが起こります。サラリーマンが、会社内での自分の仕事の位置づけがよくわからなくなったり、責任感覚がうまく持てなかったり、目に見える成果がなかなか表れなかったりすると、うつが増えてきます。
気持ちが沈みこんでくると集中力が低下して、作業効率がわるくなることがあります。すると、コントロール感覚がうまく持てなくなり、もっとたくさん仕事をやらなければとあせってしまい、処理能力以上の仕事をこなすように、自分に課すことになるため、コントロール感覚が失われてしまうという悪循環に陥ります。
主婦でも、家事や育児は「ふつうにできてあたり前」と思われがちなだけに、家族や周囲からきちんとした評価が得られないと、沈んだ気分を強めていくことがあります。とそのようなときには、自分が実際にやり遂げてきたことをもう一度確認してみることです。そして、遠くを見すぎずに、目の前の具体的な問題をひとつずつ解決していく姿勢がたいせつです。
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