酸素はこ体にとって薬にも毒にもなる両刃の剣

未熟児の失明は保育器内の高濃度酸素が原因

人間をはじめ、すべての動物は空気中に約21%含まれる酸素を呼吸して生命活動を営んでいます。その酸素にも毒性があるといえば、驚かれる人も多いかもしれません。どちらかというと、酸素が足りないという警告でたとえば「現代人は酸素が不足している」などのほうがイメージしやすいからでしょう。

しかし、これは事実なのです。たとえばネズミを酸素濃度100%の環境に入れると、数日で半数のネズミが死亡します。

人でも、潜水病や一酸化炭素中毒などの患者に高圧酸素を与えることがありますが、この高圧酸素療法は注意しないと、酸素の毒性によって肺や脳にダメージを残します。

保育器に入れられた未熟児の赤ちやんが失明するケースが、かつては相次ぎました。これは未熟児網膜症と呼ばれ、原因は保育器内の酸素濃度を上げたためであることが今日では明らかにされています。どうやら動物は、環境中の酸素濃度が約21% より低くても高くても、長くは生きられないようです。

太古の生物には酸素は猛毒

生物は、生存に酸素を必要とする好気性生物と、酸素の多い環境では生存できない嫌気性生物に分かれます。破傷風菌など一部の嫌気性菌を除けば、今日の地球上の生物は大部分が好気性生物です。

地球が誕生したのは今から46億年前といわれますが、当時の地表は水蒸気や二酸化炭素で満たされ、酸素はありませんでした。こうした環境で、39億年前に最古の微生物が誕生し、30億年前に嫌気性菌が誕生します。

一方、38億年前に原始の海の水から、太陽の光のエネルギーによって酸素が発生します。その酸素をふやしたのは植物の祖先の藍藻で、光合成によってエネルギーを生み出すことを覚え、大繁殖しながら、光合成の廃棄物として大量の酸素を放出しました。

こうしてふえだした酸素の毒性によって、酸素のない環境に生息してきた嫌気性の微生物も、また藍藻みずからも、ほとんどが絶滅することになります。

かろうじて生き残った微生物の中から、2億年ほど前に、酸素の毒性に耐える能力を備えたものが生まれました。好気性菌の登場です。好気性生物の歴史はここから始まり、原始魚、植物の上陸、爬虫類や両棲類の繁栄などをへて、人の誕生にまで連なっていきます。私たちの生存にとって酸素を欠くことができないのは、このように気の遠くなるような長い年月をかけて酸素の多い環境に適応した結果なのです。

白血球は病原体を殺すのに活性酸素を用いる

私たちの体には、呼吸や食べ物を通じて、細菌やウイルスなどの病原体が絶えず侵入してきます。皮膚やのどなどの粘膜が、侵入を防ぐバリアーの役目をしていますが、それでも侵入してくる外敵は白血球が退治します。

白血球はこのとき、酸素の毒性を利用します。酸素自体の殺菌力では弱いので、酸素をより強力な武器につくりかえて病原体を殺すようにするのです。この強力な武器のことを「活性酸素」と呼んでいます。昔、よく傷口の消毒に用いられたオキシドール(過酸化水素) は活性酸素の一種ですが、傷口やのどの粘膜などでは白血球も多量の過酸化水素を出して、感染した病原体を攻撃しています。活性酸素とはこのように、私たちの体が進化の過程で身につけた防御システムといえます。

活性酸素の害を抗酸化ビタミンがくい止める

ところで、この防御システムが過剰になり、病原体のいない場所でも多量の活性酸素が発生したら、どうなるでしょうか?

活性酸素は酸素の毒性がより強力になったものです。その毒性によって、細胞膜は壊され、遺伝子DNAは傷を負います。このような活性酸素の暴走が、残念ながら実際に私たちの体内では日常的に起こり、がんや動脈硬化などの生活習慣痛の原因となっているのです。

酸素はこのように体にとって薬とも毒ともなる両刃の剣です。その毒を消すために体内で抗酸化ビタミンが活躍しているのです。