老年期はうつ病にかかりやすい年代でもあります。体のさまざまな機能低下に加えて、親しい人との別離などが、争えてきます。これらが心の不調を引き起こしやすいのです。
妄想を伴い、自殺を考えることも
年をとるにしたがい、老化が進み、体が思うように動かせなくなったり、あちこちが痛くなったり、視覚や聴覚も衰えてきます。
また身体機能の低下とともに、病気にもかかりやすくなってきます。また、退職などによって生活環境が大きく変わるときでもあります。
加えて、この年齢になると、長年連れ添った妻や夫に先立たれたり、親しい友人が亡くなることも多くなりますので、喪失感や孤独感が深まってきます。これらのいくつかのことが重なって、生きがいをなくしてしまう人もいます。このような老化、別離などは、心にも大きく影響します。ささいなことで精神のバランスをくずしてしまいがちです。
その結果、うつ病になってしまう同齢者が多く見かけられます。高齢者の精神疾患の中で、最も多くみられるのはうつ病であるといわれています。老年期のうつ病の症状では、次のような特徴が指摘されています。
- ほかの世代の症状にくらべると、著しい憂うつな気分はそれはど前面に出ることがない
 
- ことさらいらいら感や焦燥感、不安感などが生じやすく、このため落ち着かない様子をみせたり、じっと座っていることができなくなったりする。
 
- ちょっとした体の不調が気になって、それにとらわれてしまう、聖丸症状が目立つ。精神面よりも体の症状のはうが多くみられる傾向がある。
 
- 特に痛みや腹部の不快感を訴えることが多く、その訴え方もおおげさで、ヒステリックな感じさえする。
 
- 以上のような体の症状について、つらさを訴える傾向がある。
 
- がみがみ口うるさくなる。
 
- 食欲が低下して、体重も減少する。
 
- 妄想を伴うことがある。
 
- 体力が低下するので、横になっている
 
ことが多くなり、その結果、運動不足になってさらに体力が低下する。それとともに気分も落ち込み、それが悪循環となっていく。
以上のように、高齢者のうつ病の症状は、憂うつな気分よりも、体の不調や痛みを口うるさく訴えたりすることが多いため、ちょっとみただけではうつ病とは思えないことが多いといわれます。
また、妄想を伴うこともあるのが、高齢者の症状の特徴です。主に「被害妄想」「罪業妄想」「心気妄想」、あるいは「貧困妄想」といった妄想です。
また、自殺を考える人が多いことも心配です。高齢者の場合は不安や焦燥感が強いだけに、実際に自殺をはかってしまうこともあるので要注意です。
老年期うつ病の発症に関わる要因
- 老化に伴う身体的変化
 
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- 脳内アドレナリン、セロトニン、ドーパミンの合成能の低下
 
- 感覚機能の低下
 
- 運動機能の低下
 
- 性機能の低下
 
- 身体疾患の合併
 
- 感冒、下痢、打撲
 
 
- メランコリー親和型性格
 
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- 執着気質
 
- 強迫的、まじめ、徹底的
 
- 無気力・内向的性格傾向
 
 
- 家庭内力動関係の変化
 
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- 配偶者・友人の喪失
 
- 社会的地位の喪失
 
- 孤立的環境
 
- 経済的問題
 
 
うつ病か認知症かわかりにくい
高齢者のうつ病を考えるうえで気をつけなければならないのは、うつ病の症状と「認知症」の症状とが非常に似ていることです。
先にあげた症状の特徴とはいささか異なりますが、もうひとつ高齢者に特徴的な症状があります。口数が減り、行動や反応が鈍くなるなどの症状のほかに、物忘れがひどくなったり、著しい場合には、いま自分がどこにいるのかがわからなくなることさえあります。実は、これらのうつ病の症状は、「認知症」と非常によく似ているのです。このため、うつ病の場合は「仮性痴呆」と呼ばれます。
自分がどこにいるのか、あるいはまわりにいる人などを正しく認識する能力を「見当識」と呼びますが、この機能がきちんと働かない状態を失見当識(見当識障害) といいます。
これはうつ病ばかりでなく、実は認知症によくみられる症状でもあります。また、記憶障害の症状も、双方にみられます。認知症と仮性痴呆との見分けはむずかしいとされています。
ただ、うつ病の場合、記憶障害は比較的急激にあらわれるようです。また、認知症では病状が進んでいきます。それにしたがって、自分が病気であびょうしきるという自覚、つまり病識も失われていきます。これに対し、うつ病では症状の進行はありません。また記憶力の低下などにたいへん悩み、そうした症状を隠そうとせずに、むしろ過剰ともいえるような態度で訴えようとする傾向がみられます。仮性痴呆は、うつ病が治ってしまえば、症状も改善していきます。「仮性」の名がつくゆえんです。
認知症予防はこちら。
   
  
    
  
    
                
  
  
    中年男性の場合
中年期というのは、長い人生の中でも、最も活発な時期といわれます。それだけに、さまざまな出来事が起こり、それがストレスとなって、うつ病になるケースがみられます。
内因性のうつが多い
50歳前後になると、身の回りではさまざまなことが起こってきます。仕事では十分なキャリアを積んで、それにつれて責任の重い立場に立っていきます。
同時に、仕事はますます忙しくなってきます。昇進があったり、マイホームを手に入れたりすることもあるでしょう。
一方で、家庭では子どもたちが成長して、進学や就職、恋愛問題などに悩む、むずかしい年ごろにもなってきます。また年齢的にみても、老親の介護という問題も大きくのしかかってくるころです。体の面や生理の面でも大きく変化するときです。がんとか糖尿病、高血圧などさまざまな生活習慣痛が気になり始めます。気になるばかりでなく、そうした病気が健康診断で見つかったりもします。
この時期は女性でいえば更年期にもあたるわけで、男性であっても精神面でさまざまな影響が出てくる可能性があります。記憶力や体力の衰えを感じるようにもなり、自分の老化を意識せざるをえなくなるのも、この年齢です。
さらに50代も後半になると、子どもたちが独立したり、定年が目の前になるなど、そろそろ先が見えてきて、意識の面でも大きく変わってきます。最近では、子どもの独立などによって、夫婦でともに築いてきた目標が見失われ、離婚してしまうケースすらみられます。
職場、仕事の悩みが引き起こすうつ
ざっと見渡しても、50代の男性にはこのような身の回りの変化や、心配事、悩み事がたくさん出てきます。こうしたことがストレスとなり、それがきっかけとなってうつ病にかかりやすくなると思われます。この年代のうつ病は、典型的な症状があらわれるのが特徴で、原因やきっかけがわからない「内因性のうつ病」が多いことが指摘されています。典型的なうつ病の症状は、以下のようなものです。
- 憂うつ
 
- 気がふさいで、気分が晴れない
 
- 強い不安感、焦燥感がある
 
- 悲しい、ツライ、苦しい
 
- 不安を感じる
 
- マイナス思考に陥る
 
- だるい
 
- 食欲不振
 
- 死を考える
 
- 下痢または便秘
 
- 頭痛・肩こり
 
精神面の症状のところでも述べましたが、最近は中高年の自殺の増加傾向が指摘されています。その原因のひとつにはうつ病があるといわれます。長時間労働などで過労で精神障害を起こし、自殺にした例も増加しており、これも中高年に多いことが特徴です。
またうつ病になると、好きだった酒も飲めなくなることが多いのですが、逆にふえてしまうこともあります。憂うつな気分を晴らそうと酒を飲むのですが、一時的には気分がよくなったと思っても、酔いが覚めると以前よりももっと落ち込んでしまい、そこでまた飲んでしまう、という悪循環を繰り返しているうちに、酒がやめられなくなり、アルコール依存症になることもあるので、要注意です。アルコール依存症はこちら
   
  
    
  
    
                
  
  
    思春期から青年期の場合((疲れやすく、ひきこもったり、暴力的になったりする)
思春期から青年期にかけては、人間形成のうえで重要な時期で、体の面でも心の面でも変わり目にあたります。このため、心の病気になりがちです。
思春期・青年期のうつ病の特徴
思春期は精神的にも不安定になりがちです。ストレスにも弱くなり、心が揺れ動きやすくなります。このため、ささいなことで必要以上に不安になったり、気にしたりします。
身の回りに起こることに過敏に反応するためです。思春期のうつ病の症状としては、基本的にはおとなの症状と同様で、頭痛や腹痛、食欲不振、睡眠障害などの身体的症状もみられます。ただし、憂うつな気分や自責的な傾向はあまり目立ちません。
むしろ疲れやすい、何をするのもおっくう、集中力がなくなるといった症状が多くみられます。まれに幻覚や妄想があらわれることもあります。
このために、不登校や、いわゆる「ひきこもりの状態になることもあります。また、ささいなことから怒り出し、攻撃的になり、暴力をふるうような問題行動を起こすことがあるのも、このころの症状の特徴です。
ただし、こうした暴力やひきこもりのような問題行動については、その背景にうつ病があるのか、ほかの心の病気でそのようになるのかの判断は非常にむずかしく、注意を要します。
しかも、思春期の子どものうつ病では、長い時間の経過とともに、ほかの心の病気に変わっていくこともあり、慎重な判断が求められています。
10代後半から20代にかけては、受験や就職、結婚など、人生の大きな節目や試練を経験する時期で、そうした変化の中でうつ状態やうつ病となることが多い年代でもあります。
受験生括の苦しさは多くの人が経験していますが、そのプレッシャーはたいへんなもので、そこから不安やあせりなどの気持ちにとらわれ、うつ状態になる若者が多くみられます。
また、就職して社会に出ると、これまでの環境とはがらりと変わります。人間関係も、主に友人関係中心だった学生時代とは異なり、職場や仕事関係の人たちとの対人関係のむずかしさを経験することになります。
特に上司との関係や同僚との折り合いがうまくいかなかったりして、悩むことも多くなります。自分がいだいていた仕事や会社のイメージと違ったりして、意気消沈してしまう若者の例も見かけられます。
いずれにしても、就職して社会に出るということは、人生の一大転機であることはまちがいなく、それだけに身の回りに大きな変化が起こり、それが心に影響を及ぼしたりします。
思春期のうつにどう対応するか
   
  
    
  
    
                
  
  
    子どもでも、うつ病ではないかと疑われるケースがみられます。ただ、自分の気持ちをうまく伝えられないために、いらだって、うつ病にはみえないことがあります。子供の場合、いらいらしたり、反抗したりするのが代表的な症状です。
子どもの行動や身体症状に注意する
子どもも、うつ病になるものでしょうか。もともと、うつ病は、性格とか人格が形成されてからの病気だと考えられていました。
しかし、現実には、うつ病ではないかと疑わせるような症状をみせる子どもがいることも確かです。したがって、子どもにはうつ病はないとは言いきれません。
ただし、小さい子どもの場合は、言葉をはじめ表現力が未熟ですから、診断が非常にむずかしくなります。一般に、子どもの心の病気は、家庭環境や親子の関係が深く影響しているといゎれています。特に母親との問で、十分な愛情が注がれていないと、子どもは不安になり、心の不調があらわれてくるということがよく指摘されます。
また、小学校に通うようになると、親子関係ばかりでなく、学校生括の中で友達とのトラブルやいじめなどがあったり、先生とうまくいかなかったり、加えて成績の問題などが起こるようになると、それらが憂うつな気分を招くようになります。
受診をいやがる場合は
子どものうつ病の症状は、おとなの典型的な症状のような形では出ないといわれます。いらいらしたり、問題行動を起こしたりするケースが多いのです。
表現力がないので単純な訴え方に
子どもは、自分の心がいまどのような状態にあるかを、言葉ではうまく表現できません。憂うつな感じや億劫な気持ちを、おとなにうまく伝えることができないのです。
そのため、ちょっとしたことで感情的になったり、態度が反抗的になったりします。それが体の不調としてあらわれることもあります。
注意しなければならないのは、正確にごい表現するだけの語彙が少ないので、「おなかが痛い」とか「頭が痛い」という、きわめて単純な訴え方をしてしまうことです。
おとなは、それを言葉どおりに受けとってしまい、子どもの本当の気分を見すごしかねません。学校に行きたがらなくなり、長く休む、いわゆる不登校なども、うつの気分のひとつのあらわれと考えられますので、注意する必要があります。もちろん、これらの症状は、その背景にあるのはうつ病ばかりとはいえず、ほかの心の病気についても考える必要があります。