さとり世代の心をつかむ「お客様の心をつかむ」

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マーケテイングの世界で「さとり世代」なるキーワードがクローズアツプされている。消費や仕事に消極的とされた「草食系世代」よりも1つ下の世代に当たる彼らは、中間管理職世代の大人たちとはまったく異なる価値観で生きている。
この「さとり世代」の若者たちを取材し、その研究・分析結果をまとめた著書『大人が知らない「さとり世代」の消費とホンネ』を上梓した牛窪恵氏lこ、知られざるさとり世代の心の内と、彼らを職場で生かすためのコツを教示していただいた。

いま、「さとり世代」という言葉が注目を集めています。これは現在17~25歳のいわゆる「ゆとり世代」を指す新語で、2ちゃんねるが発祥とされています。少し前に「草食系」という言葉が流行りましたが、こちらは一つ上の世代で、現在二十六〜三十二歳に当たります。大人たちから見れば、どちらも「何を考えているのかわからない世代」という印象かもしれませんが、さとり世代と草食系世代には明らかな違いがあります。
よく言われるように、草食系は消費にも仕事にも恋愛にも消極的で、守りに徹しているのが特徴です。

一方、さとり世代の取材をしてみてわかったのは、彼らは消費をするのは決して嫌いじゃないし、仕事に対して無気力なわけでもない。むしろ仕事の覚えも早いし、要領もいいという印象です。ただし、言われた以上のことはあえてやろうとしないし、無理をしようともしない。彼らはある意味で非常に賢く、守りと攻めをバランスよく使い分けるのです。クールでどこか悟っている、まさに「さとり」の世代と言えるでしょう。草食系世代とさとり世代の違いを生んだ要因の一つは、親世代にあると私は考えています。
草食系世代の親は、全共闘世代の下の「シラケ世代」と呼ばれた人たちが中心。「三無主義(無気力、無関心、無責任)の若者」と呼ばれ、「いいクルマに乗ったり、大きな家を買うことがカツコいいわけじゃない」と消費についても斜に見ていた世代なので、その子供である草食系世代も、消費に意欲的ではありません。それに対し、さとり世代の親は「バブル世代」が中心です。

消費好きな親に連れられて、小さい噴から高級レストランでの食事や海外旅行を楽しんできた人も多いので、消費そのものを否定はしません。しかし一方で、すでに終身雇用制度は崩壊し、老後の年金もろくにもらえないだろうと悟っているので、無駄な出費はしたくない。だから、買い物をするときも「ほんとうにこの金額を払う価値があるのか? 」と、とことん考える。「安い」「お得」といった言葉に踊らされず、「コストパフォーマンス」を非常に重視するのです。

この「コスパ重視」の価値観は、消費行動だけに現われるのではありません。彼らは仕事においても、「これをやることに、どれだけの価値や意味があるのか?」という効率を重視します。その結果、「どうせ自分一人が頑張ったところで、会社が変わるわけじゃないから、そこそこの力でこなせばいい」といった冷めた考えに行き着くことも珍しくありません。現在の中間管理職世代からすれば、「多少効率が悪くても、頑張るからこそ成功が得られるんじゃないか」と歯がゆく思うかもしれませんが、そもそも彼らは成功体験が少ない世代です。

競争を美徳としないゆとり教育を受け、少子化によって大学も全入時代に突入したため、他人と本気で競い合い、頑張った末に何かを勝ち取った経験がほとんどありません。だから彼らは賢い半面、実は自分に自信がない。よって、職場でさとり世代の力を引き出すには、まずは小さなことでいいから「成功体験を積ませること」が何より大事です。コスパ重視のさとり世代にとって、「達成感」は大事なキーワード。「自分はここまでやれた」という達成感を得られれば、その仕事に費やした時間や労力も駄ではないと思えるようになります。

そのためには、上司の側が仕事の指示を具体的に出す必要があります。これはある企業で問いた実話ですが、上司がさとり世代の部下に「明日の会議に必要だから、資料作成を頼む。頑張れるな? 」と言ったら、翌朝出社しても資料はできていなかった。上司が理由を聞くと、「1時間ほど頑張ったんですが、終わらなかったので帰りました」と答えたうえです。上司は当然、「がんばる=徹夜してでもやる」という意味で言ったのですが、もはやさとり世代は使っている言語が違うので、そんな指示では意図が伝わらないのです。
よって、さとり世代には期日や期問、任せる範囲などの目標を明確に示すこと。この場合なら、「この資料は明日の朝十時からの会議で必要になる。だから、これから3時間でA4 1枚にまとめて、私の机に提出してから帰りなさい」と具体的に指示すべきです。彼らは効率主義なので、ゴールを示した途端にイメージできて、時問内に要領よくこなしてくれます。そして指示どおりにできたら、必ずほめるのを忘れずに。その達成感が成功体験となり、少しずつ自信もついていきますし、できることの範囲や「クオリティも段々とレベルアップしていくでしょう。

「そんなに事細かに指示したら、嫌がるのでは」と思うかもしれませんが、さとり世代の若者たちは一様に「マニュアルがあったほうがラク」と話します。彼らが小中学生だった頃に、学校でいじめが頻発し、しかも陰湿化したこともあり、さとり世代は「周りから悪日立ちすること」や「砕からはみ出すこと」を非常に恐れます。だから職場でも、上司や先輩にお手本を示してもらい、それに従うほうが安心なのです。

とはいえ、いつまでも言われたことしかやらない人材では会社としても困るはず。そこで、指示を出すときには、「最低限ここまでやれれば、失敗しても大丈夫」というベースラインを示して、自分なりに挑戦や工夫をする余地を与えてあげるとよいでしょう。そして、たとえ失敗しても、それまでの頑張りにはちゃんと意義があったことを伝えてください。できれば、「今回の結果から、こういう新しい学びが得られたことは、このチームにとっても意味があったよね」などと、本人だけでなく周囲の人たちにも、この失敗は意味があったのだと伝えるのがベスト。なぜならさとり世代は、「周囲に迷惑をかけたくない」という思いが非常に強いからです。

裏を返せば、「人や社会に貢献したい」という思いも強いので、彼らの行動が他人にとっても役立つのだと理解させれば、仕事を頑張るモチベーションも引き出せるはずです。現在、企業でリーダー層にいる大人たちの側も、さとり世代の価値観や思考を理解するべき時期に来ています。
なぜなら、これは上司対部下の問だけに留まる問題ではないからです。今後は企業にとって顧客となる消費者も、さとり世代が中心になります。従来の価値観でマーケティングや商品開発をしていたら、物が売れなくなることは、すでにはっきりと結果が出ていること。消費者としてのさとり世代を理解すること、そして企業の中でもこの世代を戦力となるよう育てていくことが、これから日本企業が成長していくために不可欠ではないでしょうか。