「水道水がまずい」というのは、もはや世の中の常識です。そして「水道水は危険」という記事や報道も日常的に目にするようになってしまっています。
しかし、水道水であればすべて「まずくて危険な水」というわけではありません。同じ日本でも良質な水源に恵まれている東北、北陸、中部、四国地方で供給されている水道水の多くは、世界のあらゆる国の水道水と比べてもぬきんでて「おいしくて安全な水」 といっていいレベルにあります。名水百選などは有名なキレイな水でもあります。
問題はそれ以外の地方の水道水です。中でも東京や大阪、福岡といった大都市圏の水道水の危険性は、決して否定できるものではありません。水道水の水源は、その約70 パーセントが河川水か湖(ダム) の水。最も飲み水に適している地下水を水源としている水道水は全体のわずか25%にすぎません。水道水がまずいとされる根本的な理由は、この河川水や湖の水の汚れにあります。生活廃水の混入はもとより、産業廃棄物、ごみ処分場からの漏水、農薬、ゴルフ場で使われる除草剤、そしてアオコなどの藻類や、クリプトスポリジウムといった病原性微生物など、水質を汚染する要因は数えきれないくらいあります。
とりわけ東京都の水源のひとつである江戸川や、大阪府の水源である淀川の水質汚染は深刻です。これだけ汚染された水をなぜ使うのかといえば、日本の水道法には水道水そのものの水質基準はあるものの、水源となる河川や湖については水質基準が定められていないから。だから東京や大阪では、そのままではとても飲めない江戸川や淀川の水を、浄水場でさまざまな化学処理をして、何とか飲めるように加工しているわけです。汚れた水を殺菌するために、浄水場で使用する薬品には塩素がありますが、これがあのツンと鼻をつくようなカルキ臭の原因です。
汚染がひどければひどいほど使用する塩素の量が増えますから、カルキ臭もさらに強くなります。そして塩素は他の物質と結びつくことで、恐ろしい「発ガン性物質」 を生み出します。その代表がトリハロメタンです。トリハロメタンとは、じつはひとつの物質ではなくて、プロモジクロロメタン、クロロホルム、プロモホルム、ジプロモクロロメタンといった、似たような性質を持つ化学物質のグループ名です。これらの物質は腐敗した草木から発生する「フミン質」という物質と塩素が反応して生成れます。つまり、汚い川や湖の水と塩素が結びついた結果、生まれたのがトリハロメタンなのです。トリハロメタンの危険性が最初に指摘されたのは、1974年のこと。アメリカ、ニューオーリンズのミシシッピー川を水源としている住民に、高いガン患者の発生率が認められるという報告が発端です。
その後、日本の水道水からもトリハロメタンが発見され、社会問題となったことは、ご存じの方も多いと思います。もちろん、水道水に含まれる程度の微量なトリハロメタンは、体に入ってすぐに病気を引き起こすようなものではありません。しかしこの物質は脂肪に溶けやすい性質を持っているため、体内に蓄積しやすく、特に胎児に与える影響が大きいといわれていますから、出産をひかえた女性にとっては決して軽視できない問題です。
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