糖尿病の診断基準

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

2010年に、それまで参考所見にすぎなかったヘモグロビンA1Cが糖尿病の診断基準に取り入れられました。以前は血糖値で糖尿病を診断することが基本でしたが、いくつか面倒な問題がありました。

たとえば、健診でたくさんの人の空腹時の血糖値を計ろうとすると、2つの問題によく出くわします。

1つは、健診の何日か前から食うや食わずで血糖値を下げて、健診に引っかからないように必死の努力をする人が必ずいることです。私の知る、とある製薬会社に勤める人は、なんと健診の1ヶ月前から体重を5kgくらいしぼって健診に臨みます。健診が終わったその日は、糸の切れたタコ状態で飲んで食べるそうです。

気持ちはわかりますが、これでは、3ヶ月もするともとに戻ってしまい、健診の意味がありません。

もう1つは、健診で何百人もが受診すると必ず何十人単位で「ご飯食べちゃった」とか「牛乳飲んだんだけど」とか言う人がいます。食べ物が影響する指標はまず体重ですが、血糖値と中性脂肪値も大きく食事の影響を受けます。

そこで、ヘモグロビンA1Cの登場です。この指標は、2 ~3 日食事制限をしたり、健診当日、朝食を食べてしまっても大きな影響を受けません。ただ、健診での必須項目かというと、血糖値かHヘモグロビンA1Cのどちらかを計ればよいことにななっていますので、検査コストが高めのヘモグロビンA1Cを省く自治体も少なくありません。

健診で空腹時血糖値が1100~125mg/dlの人は、当面、境界型として取り扱われます。126mg/dl以上の糖尿病領域の人はもちろん、境界型の人も別の日にブドウ糖負荷試験を受けて正しい判定を受けることが望ましいと思います。

そのとき最初に起きる問題は、糖尿病ではないことを理由に再検査、あるいはさらなる精密検査を受けないまま放置する人が意外と多いことです。さらに、受診者が再検査を受ける気になつても、医療費を考慮して医師サイドが消極的な場合もあります。

さて、診断の手順は医師の裁量に任されていますが、境界型の血糖値を見たら、まず、ヘモグロビンA1Cと空腹時血糖値の再検査、あるいはヘモグロビンA1Cと食後1〜2時間の血糖値を知りたいと思うのが人情です。ヘモグロビンA1Cも高ければ、ブドウ糖負荷試験という精密検査をしてみようと考える医師は多いと思います。

つまり、最低2回は血液を調べないと、ブドウ糖負荷試験までたどり着かないという、健診を受ける人も医師もとても面倒くさい手順なのです。しかし新しい診断基準は、ヘモグロビンA1Cを組み込むことによって、より簡略な手順での診断を可能にしました。

もう1つのメリットは、ヘモグロビンA1Cを計って6.1% 以上なら、随時の血糖値、空腹時血糖値、症状の有無(口渇、多飲、多尿など) を参考に診断を下すことが可能なことです。血糖値、ヘモグロビンA1Cのいずれか、あるいは両方異常値が出れば、最低でも「糖尿病の疑い」というカテゴリーで経過観察を要するというのが、専門医の先生方の共通認識のようです。

糖尿病の診断に関しての細かい手順の説明は省きますが、心して知っておいてほしいことは、世の中には、「なるべく病人を出したくないと考えて、少々のことには目をつぶる人(医療サイド)、あるいは目をつぶってほしい人(患者サイド)」と、「何の症状もなくまったくの健康なときから発生の芽を摘んで豊かな未来を築こうとする人」の2種類の人種がいるということです。

あなたがどちらなのか、そしてあなたとかかわる医師や健康サービスがどちらなのか、あなた自身が心して見定めて、ご自分や家族の健康と未来の設計をしていただきたいと思います。最後に改めて整理しておきます。

糖尿病の診断

血糖値
空腹時126mg/dl以上、または食後2時間200mg/dl以上糖尿病型糖尿病型でも正常型でもないもの境界型
ヘモグロビンA1C
5.2 %未満正常5.2~6.1% 要指導(注意が必要)6.1% 以上受診勧奨(糖尿病の可能性がきわめて高い状態)

日本と欧米では、ヘモグロビンA1Cの測定方法が違います。日本の測定方法で得られた値はJDS値、欧米はNGSP値といい、JDS値は GSP値より0.4 % 低い備になります。1今後JDS億は廃止されてNGSP値に統一されることが決まっており、現在のヘモグロビンA1Cの基準値6.1% は6.5% に変わります。

膵臓は、血液中のブドウ糖の量が多いか少ないかを判断してインスリンの分泌量を調節しながら、血糖値が安定するように働いているのです。この流れをまとめると以下のようになります。食事をする→血液の中にブドウ糖が吸収されて血糖値が高くなる→膵臓でインスリンがつくられて血液中に分泌される→インスリンの作用で血液中のブドウ糖が細胞の中に取り込まれる→血糖値が下がると説明しましたが、そこで問題になるのが、膵臓のチカラです。

日本人は欧米人のように膵臓が発達していません。インスリンの分泌量も少なく、分泌のスピードも緩やかです。そのなかでも、生まれつき膵臓のβ 細胞が弱い人や、せっかくのβ 細胞を免疫細胞が自分の敵とみなして攻撃し、破壊してしまうタイプの糖尿病の人がいます。

これが、いわゆる1型糖尿病です。1型糖尿病は、通常若いときから発症するのですが、最近では中年期を過ぎてβ細胞を自分の免疫細胞が壊してしまう遅発型があるともいわれています。ただし、こういう人たちはとても数が少ないのです。いま世間を騒がせている糖尿病はこの1型ではなく、2型です。

日本人の糖尿病には、インスリンが少ししか出ない1型糖尿病のほかに、インスリンは少し出ているけれど働きの足りない日本人型2 型糖尿病(やせの糖尿病)、インスリンはたくさん出ているのに働きの悪い欧米人型2型糖尿病(肥満の糖尿病)があります。

2型はl型と違い、膵臓の機能がもともとは正常です。しかしβ細胞を酷使することによって、β細胞が疲弊してしまうのです。倹約型の進化をしてきた日本人は、インスリンの分泌能力が生来低いにもかかわらず、ここ数十年、脂肪の多い、日本人にとっては少々きつい食事をしてきました。

また、飽食の時代が到来し、三度の食事をお腹いっぱい食べ、さらにその合間に食べたり飲んだりしてきたので、β細胞は休む暇がありません。こうしてβ細胞を酷使してインスリンのムダ使いを長く続けてきた結果、膵臓が疲弊してβ 細胞の数が減ったり働きが落ちてしまっているのです。

すると、インスリンが正常に分泌されなくなり、分泌量が少なかったり、分泌のタイミングが遅れたりしてきます。β細胞が正常に働いている場合、食後の血糖値上昇開始とほぼ同時にインスリンの追加分泌(食後のインスリンの分泌) が起きて、速やかに血糖値を正常域まで下げます。ところが、インスリンの追加分泌が少なくなれば血糖値は下がりにくくなり、高血糖状態が長くなります。

また、日本人は先天的に追加分泌が遅い民族です。β細胞が壊れるとそれがさらに遅くなり、血糖値が上昇してからインスリンが分泌されるという事態になります。するとそこにタイムラグが生じ、血糖値が下がりにくくなります。

一度落ちてしまったβ 細胞の働きは、そう簡単には戻りません。いま、この世の中には多種多様な糖尿病薬がありますが、β 細胞を元どおりに修復してインスリン分泌を正常にさせるような薬は一つもないのです。こうしたインスリンの分泌異常のほかに、さらに重要な問題があります。それが、「インスリン抵抗性」(「インスリンの感受性が低くなる」ともいいます) です。細胞の表面にはインスリンと結合する受容体があり、インスリンがこれと結合して初めて、ブドウ糖が細胞に取り込まれます。

しかし受容体の働きが悪くて結合がうまくいかないと、インスリンがいくら分泌されても作用を発揮できません。これをインスリンの抵抗性といいます。戦後60年で、約4倍に増加した日本人の脂肪摂取量。この急激な脂肪の大洪水に体がついていけず、インスリンの感受性が低下している人が増えています。これが糖尿病の増加に、拍車をかけています。インスリンの分泌異常による糖尿病なのか、インスリン抵抗性のために起きる糖尿病なのか。自分の糖尿病はどちらなのか、知る必要があります。

大事なポイントはインスリン

この糖代謝をつかさどっているホルモンがいくつかあります。血糖値が低くなるとグルカゴン、アドレナリン、コルチゾールなどのホルモンが分泌されて血糖値を上げる方向に働き、血糖値が高くなるとインスリンというホルモンが分泌されて下げる方向に働きます。

人類の血糖値を上げるホルモンは複数ありますが、下げるホルモンはインスリンだけです。長い飢餓の時代を経て、その飢餓の中でも生き残るために血糖値を上げる方向に進化した結果、人類は血糖値を下げるホルモンをたった1つしか獲得しませんでした。

血糖値を下げる唯一のホルモン、インスリンとはどのようなものでしょう。インスリンは膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞でつくられます。これが細胞の表面にあるインスリン受容体に結合すると、「ブドウ糖を取り込みなさい」という信号が細胞の中に送られてブドウ糖を取り込むようになっています。

ちょうど、カギとカギ穴のように、インスリンが受容体にピッタリはまると、細胞にある扉が開いてブドウ糖が細胞の中に入っていくのです。それによって血液中のブドウ糖が少なくなり、血糖値が下がります。いくらブドウ糖が細胞の中に入りたくても、インスリンが分泌され、それが受容体に結合しない限り、ブドウ糖を取り込む扉は開きません。

その結果、ブドウ糖は血液中に残り、血糖値が上がってしまいます。血糖が増えても、ブドウ糖が血液の中におとなしく存在するだけなら、人類の歴史に糖尿病という病気は存在しなかったでしょう。ところが、血液中に残ったブドウ糖は血管を傷つけながら、全身をめぐります。それが、動脈硬化を急速に進行させる原因になるのです。糖尿病になるかならないか。そのカギを握っているのは、インスリンです。

そもそもンスリンが正常に働いていたら、誰も糖尿病になることはなかったのです。健康な人なら、就寝中など長い時間、食事などから糖質が補給されないときは、肝臓にためておいたブドウ糖を血液中に引き出して利用しますが、引き出しすぎると血液中のブドウ糖が増えすぎて、血糖値が高くなります。

ですから膵臓は、つねにインスリンを分泌して血糖値を一定に保つように調節しています。これをインスリンの「基礎分泌」といいます。また、食事をしたとたん血糖値はすぐに上がり始めますが、同時に基礎分泌の何倍ものインスリンが一時的に分泌されてブドウ糖を肝臓に取り込みます。

これをインスリンの「追加分泌」といいます。このように膵臓は、血液中のブドウ糖の量が多いか少ないかを判断してインスリンの分泌量を調節しながら、血糖値が安定するように働いているのです。この流れをまとめると以下のようになります。食事をする→血液の中にブドウ糖が吸収されて血糖値が高くなる→膵臓でインスリンがつくられて血液中に分泌される→インスリンの作用で血液中のブドウ糖が細胞の中に取り込まれる→血糖値が下がる

血糖値はなぜ上がるのだろう?

糖尿病は血液中のブドウ糖(血糖)が過剰に増えて、減るべきときに十分減らなくなってしまう病気です。この病気がなぜ問題かというと、過剰になった血糖が全身の血管を傷つけ、さまざまな合併症を起こすからです。

足の切断につながる壊痕、失明の恐れのある網膜症、放っておけば透析のお世話にならなければならなくなる腎症。さらに大きな血管がダメージを受けて、心筋梗塞や脳卒中を起こすこともあります。本来ブドウ糖は、エネルギー源となる大事な栄養素。これが全身の細胞に供給されなくなると、細胞はエネルギーをつくれなくなり、死んでしまいます。

それは、人が生きられないことを意味します。ところが、この大事な栄養素も、多すぎると体内で悪さをするようになります。いったい血糖とは何か? なぜ必要以1 に増えてしまうのか? まず糖尿病を引き起こす血糖について考えてみましょう。

糖質は、米(ご飯、もちなど)、小麦粉(パン、麺など)、イモ類、果物、砂糖などに多く含まれています。食事で摂取した糖質は消化酵素によってブドウ糖に分解され、小腸の血管から血液の中に吸収されます。この血液中に存在するブドウ糖を「血糖」といいます。

それを数値で表したものが血糖値(単位はmg/dl)です。この血液中に吸収されたブドウ糖のほとんどは、肝臓に送り込まれます。そして貯蔵しゃすい形の「グリコーゲン」(糖の仲間。1 g=4kcal) に変化して、肝臓内の細胞に蓄えられます。肝臓に取り込まれなかった残りのブドウ糖は、筋肉と脂肪組織に蓄えられます。脂肪細胞に蓄えられる場合は、中性脂肪の形に変化します。

食事をとったあとは、血液中に大量のブドウ糖がばらまかれ、急激に血糖値が高くなります。すると肝臓は急いでブドウ糖を取り込み、肝臓に蓄えます。肝臓に入りきれなかった残りのブドウ糖は筋肉や脂肪細胞に取り込まれます。ですから、食後2〜3時間すると血糖値は下がり、食べる前と同じくらいの値になります。就寝中など、食物を口に入れないときは血糖値が低くなりますから、今度は肝臓に蓄えておいたグリコーゲンをブドウ糖に戻して、血糖値を安定させ、またエネルギー源とします。

このように、食事をして摂取したブドウ糖が体の中で適切にエネルギー源として利用されることを、「糖代謝」といいます。糖代謝がうまくいかなくなると、血液中にブドウ糖が増えすぎてしまい、血糖値が高くなります。この高血糖が長く続いた状態が「糖尿病」です。