「死にたい」といわれたら

うつ病の人が自分を傷つけることがありますが、こうすれば防げるという「特効薬」はありません。とにかくまず、きちんと向き合って話し合うことです。

家族や身近な人、親しい人から「死にたい」といわれたら、だれでもびっくりして、動揺します。なんとかしなければと思います。そういう場面では、私たち医師も含めて、こうすれば必ず防げるという教科書的いな答えはありません。

ただ一生懸命くい止めるしかないと思います。「私なんか、いるだけでみんなに迷惑だ。いないほうがいいんだ」という相手に対して、あなたなりのいい方で、「そんなことはけっしてない。あなたは私にとってだいじな人だ。あなたがいなくなったら、私はとてもつらく、悲しく感じると思う」というメッセージを、誠実に、一生懸命伝えるしかないだろうと思います。

ふあなたとその人の、これまでの関係や出来事をもう一度振り返ってみることも、役に立つかもしれません。なにか背景になっている問題があるのならば、話し合って、それをなるべく具体的にはっきりさせて、いつしょに解決策を探してみるのもいいでしょう。自分の死を考えるほど思い詰めているときには、視野が狭まって、具体的な問題点が見えなくなっていることも多いので、なにが問題なのかが見えてくるだけで、本人の気持ちが少しらくになることもあります。

ういう心境のときには、まわりを断ち切るような思いと、救いの手を引っ張り込もうとする力が、両方ともすごく強くなっているこふとがあるので、巻き込まれすぎない、踏み込みすぎない、振り回されないという気持ちを持つこともたいせつです。

あなた自身の足場をきちんと確保して、見通しをよくしておくことが、手助けにも役立つはずです。どこから広まったのか、「『死にたい』と口にする人は、なかなか死ぬもんじゃない」とよくいわれますが、そんなことはけっしてありません。「死」や「自殺」ということばが聞かれたら、きちんと話し合うべきですし、医師にも早く相談してほしいと思います。

そういうときに、相手のことばのウラを読んだり、別の考えがあるのさぐではないかと探ったりしても役には立ちません。それよりも、そういうことばを口に出すくらい、本人はとてもつらいのだろうと受け止めて、そういう気持ちにきちんと目を向けていくことのほうがずっとたいせつです。

友人のうつ状態をサポート

友達がうつ状態に悩まされていたら、まずゆっくり話を聞いてあげましょう。それだけで本人にとって大きな助けになることがあります。

親しい人が、うつ病の治療中だったり、うつ状態が感じられるようなときに、友達としてどんな手助けが考えられるでしょうか。

これは、なかなかデリケートで難しい話題です。基本的には、相手がその気になったときに、なるべくゆっくり話を聞いてあげるということだろうと思います。

あたりまえのように感じられるかもしれませんが、だいじなことです。うつ的な気分になっている人のほうからすれば、親しい人に話を聞いてもらうだけでも、あまり話さずにいっしょにいるだけでも、ずいぶん気持ちがらくになるものです。

そのときのちょっとしたコツは、「なにか役に立つようなことをいってあげたい」「なんとかしてあげたい」という気持ちを、あまり強く持たないようにすることです。話をゆっくり聞くだけで、相手にとっては十分役に立っています。さそこちらから誘いをかけても、のってこないこともあるでしょう。

そういうときには、むりをせずに、「気が向いたら、いつでも話を聞くから」いそがと伝えておけばいいと思います。うつ的な気分の人は、忙しそうなのにめいわくわるいな、迷惑だろうなという引っ込んだ気持ちになりがちなので、「私も、忙しいときは忙しいっていうから、いつでも連絡して」というたんかんようなことばを添えておくと、相手の負担感のようなものが少しやわらぐかもしれません。

機会を見つけて、自分の気持ちを少し整理しておくのもいいことです。自分はその友達のためにどれくらいのことができるだろうかと、「できること」と「できないこと」の仕切りをちょっと考えてみるのです。話を開くのでも、月に2~3回ならできても、毎日となると、だれだってなかなかできません。

だからといって、毎日会いに行けないあなたがわるいのではなく、それはしかたのないことです。それを、「毎日会いに行けない私は、冷たい人間だ」などと自分を責める気分になってしまうと、今度はあなたが気分を落ち込ませることになってしまいます。

ある程度「距離を置く」のは、けっしてわるいことではありません。むしろ、少し意識的に精神的な距離をとるくらいのほうが、冷静で見通しのよいサポーターとして、相手の役に立つことができるはずです。

高齢者を孤立させないために

高齢者のうつ病は、積極的な治療が必要です。高齢者を孤立させずに、早くうつに気づけるように実行できるサポートを工夫していってほしいのです。

高齢者がうつ病になると、いろいろな体の病気にかかりやすくなったり、いまかかっている病気が悪化しやすくなったり、治りにくくなったりします。

自殺のおそれも高まります。中高年の自殺死亡率が増加

歳のせいだと見すごされたり、痴呆と混同されたりしやすいのですが、高齢者のうつ病は、早く見つけて積極的に治療することがたいせつです。

いろいろな意味からよくいわれることですが、うつ病に早く気づくたこりつめにも、高齢者を孤立させないことがたいせつです。身近にひとり暮らしのおじいさんやおばあさんがいたら、できるだけ連絡や接触の機会をつくるようにしてほしいと思います。近くであれば、訪ねていって話す回数をもっと増やせないか、もう一度考えてみてください。

遠くでも、携帯電話や手紙など、方法はいろいろあるはずです。携帯電話やパソコンを使うようにしてもらいメールアドレスを交換するなどというのもよいでしょう。

知っておいてほしいのは、下の世代と同居している高齢者の「孤立」は、意外に気づかれにくいということです。日本ではひとり暮らしの高齢者よりも、家族と同居している高齢者のほうが自殺率が高いという報告もあるほどです。

自分はもう仕事も家のこともしないで、ただ下の世代にめんどうをみてもらっているだけだという罪悪感のようなものを感じていることがあるので、家族は、高齢者のそういう気持ちを見落とさないようにしてください。

妻をなくしたおじいさんが、息子夫婦も毎日忙しそうだし、孫たちも学校に行くようになってあまり相手をしてくれず、ひとりで昼間からこたつでお酒を少しずつなめながら、「死にたい、死にたい」とつぶやいている。

たとえばそんなようすを見かけたら、年寄りのぐちと聞きすごさないで、もっと話を聞いてみるようにしてほしいと思います。

最近は、多くの自治体や市民グループなどで、趣味や健康づくりのサークルなど、高齢者の「生きがいづくり」に地域ぐるみで取り組むような試みも増えています。そういう活動への参加をすすめてみるのも、積こころふ極的に考えてみたほうがいいことのひとつだと思います。

高齢者の引っ越しはよく考えてから

現在ひとりで暮らしている高齢の父、あるいは母を、息子や娘が心配して、自分たちと同居させようとする話はよくあります。そういうときには、本人の気持ちや考え、いまの暮らしぶりなどを、ていねいに見つめ直してみてください。

高齢者の引っ越しは、しばしばうつのきっかけになります。まわりから見れば新しい環境のほうがずっと便利で健康的なのに、本人は「夏暑くて冬は寒いボロ家だったけど、やつぱりあそこがなつかしい」という具合になりがちです。

いまの住まいや地域には、その人のこれまでの生活と人生が詰まっているはずです。知り合いもそれなりにいて、買い物や食事も自分でなんとかできていて、本人も住み続けたいと思っているのならば、それでも同居を急ぐ必要があるのか、もう一度本人とよく話し合ってみてください。

思春期のうつにどう対応するか

子供のうつ病は、成人と違った症状で現れることがあります。本人のつらい気持ちに目を向けることから何かが見えてくるかもしれません。

思春期と呼ばれる10代くらいの子どもがうつ病になると、強いイライラ感や反抗的な行動などとなって現れることがあります。

また、引きこもりの背景にうつがある場合もあります。いずれにせよ、表面的な行動だけでなく、どんなつらい気持ちが背後にあってそのような行動にでるのかという点に目を向けていくことがたいせつです。

なにか精神面の不調があるのかもしれないとまわりの人が感じたときには、いろいろな機会やきっかけをとらえて、話を聞いてみてほしいと思います。そのときに知っておいてほしいのは、この年代ではまだ、自分の心のなかで起こっていることを、体験したり、感じたり、表現したりすることが、必ずしもうまくできないことがあるということです。

うつ病ではないか、神経症っぼいのではないかなどという先入かん観を持たずに、本人の話を注意深く聞きながら、その子が育ってふきたプロセスを振り返ってみたりもしながら、いまその子の心でなにが起こっているのか、思いをめぐらせてみてください。

この年代は、親や周囲のおとなに反抗しながら、自立していこうという気持ちが強まる時期でもあります。あまり話したがらなかったり、拒否的な態度をとる子どももいるでしょう。声をかけたり、いまの気持ちを話すようにすすめてもあまりのってこないときには、むりに深追いはしないほうがいいと思います。

心配なので医療機関を受診させたいというときも、やはりむりや押しっけはよくありません。話を聞いたり、日ごろのようすを見守りながら、たとえば眠れないとか、体の不調がなかなかとれないなどの、具体的な気がかりをきっかけに「ちょっと医者に相談に行ってみないか? 」と話してみるようにしてください。

本人に拒否されても、先を急がないでください。自分を傷つけこういるような行為をとらないように、そ」だけは十分に気をつけてようすを見ていけば、本人の気分が変わったり、別の機会やきっかけが見つかることもあるかもしれません。まわりはあまりあせらずに、本人の力を信じて、見守っていってほしいと思います。

病状を周囲の人にどこまで話すか

うつ病を改善させていくためには、まわりからのサポートが大きな力になります。そのためには、必要な人にうつ病であることを知らせていく必要があります。

本人から気分が落ち込んでいるという相談を受けて、仕事や生活上の配慮やくふうをし始めたり、医療機関への受診をすすめたり、実際に受診して、うつ病という診断を受けて治療を始めるというようなことになってくると、病気のことをまわりにどれくらい知らせておくべきかというのが、具体的な問題として出てきます。

基本的な考え方としては、うつ病の治療にはそれなりの期間がかかりますし、隠すような病気でもありませんから、必要に応じてきちんと話して、周囲の理解と協力を求めていくという姿勢がたいせつです。

本人にとっても、まわりがある程度わかっていて、必要なときにはそれなりの手助けが受けられるという雰囲気を感じられたほうが、気持ちの負担もそれだけ軽くなって、治療の面でもいい意味があるはずです。

ただし、周囲に知られることについて、本人の考えや気持ちを最優先するのはもちろんのことです。私自身は、企業で働く人のうつならば、同じ部署の同僚には、ある程度は知らせておいたほうがいいと考えています。

職場がらみのうつでは、多くの場合、仕事の内容や分量の調整が有効な手段になります。そういうときに周囲がなにも知らされていないと、「なんであいつだけ」と人間関係の摩擦が生じてしまうかもしれません。

職場の異動を考えるときには、異動先の上司ともよく話しておく必要があります。主婦のうつでは、同居している家族はもちろんですが、行き来の多い親戚や近隣の人、地域活動などに参加しているときにはそのなかまなどに、どの程度話したほうがいいか、こまかく相談しながら決めていく必要があるでしょう。

このように、本人の仕事や生活を具体的にイメージしながら、どれくらいの範囲の人たちに、どんなことをわかってもらい、どういう手助けをしてもらえれば、本人のうつを改善するためにプラスになるかということを考えてください。

もちろんいっぺんに答えを出すことはありません。必要なときに、必要な範囲で考えていけばいいのです。そして、必ず事前に本人とよく相談して、だれに、どういう形で、どの程度話すか、なつとくお互いに十分納得しながら進めていくことがたいせつです。

酒の席での相談はNG

サラリーマンなどで、「じやあちょっと酒でも飲みながら話を聞こうか」というケースを見受けますが、相手が沈み込んだりペースが落ちているようなときの相談には、お酒の席は向きません。

話し合いや相談の目的は、まず相手の話をよく聞き、問題点を具体的にはっきりさせて、ひとつひとつ解決策を探していくことです。お酒をせま飲むと思考力が低下して考え方も狭くなりますから、話が散漫になったり、結論を急いだり、決めつけてしまったりしがちで、問題解決のための話し合いにとってはデメリットが多すぎます。

ちょっと気持ちをほぐそうということであれば、まずひととおり話し合ってから、そのあとで軽い食事というようにしたほうがよいと思います。

受診をいやがる場合

本人が受診を納得しないときには、けっして無理をしないでください。うつ病の治療では本人の「よくなろう」という前向きな姿勢が欠かせません。

いくら受診をすすめるタイミングが最適であっても本人が受診を敬遠するケースも多々あります。仕事や生活上の問題や、心身の気になる症状から、精神科への受診をなっとくすすめても、本人がスムーズに納得するとは限りません。

医師は、精神面でなにか気になることがあるときには、小さなことでも、なるべく早めに、気軽に受診してほしいといつも思っています。けれども、多くのみなさんにとって、精神科も心療内科も、まだまだなじみが薄いところだろうということも知っています。

ですから、「とにかく病院に行きなさい」と頭ごなしにいったり、むりにすすめたりするのはよくありません。とくに、うそをついたりだましたりして精神科につれていくようなことは、絶対にしないでください

上司が部下を「食事に行こう」といったり、「自分の診療に付き添ってほしい」といっていっしょに病院に来て、実は子どもの精神状態が心配だと話し始めたり、というようなケースがときどきあります。

私も何度か経験がありますが、たいていの場合は、本人がすごく怒ってしまい、医師としても、「ご本人とよく相談して、またいらしてください」というしかなくなってしまいます。

精神科の診療では、精神科医が一方的に患者さんの精神的な問題をとり出して、解決するようなことはできません。患者さんが、自分の気持ちを率直に話してくれなければ、医師もなにもわかりません。

患者さん本人が、受診して治療に取り組むことを納得して、医師の力を借りてみよう、自分の精神面にいまなにが起こつているのかを理解していこう、解決していこうという姿勢を持つことがとてもたいせつなのです。

本人がなかなか納得しなかったり、拒否的な態度が強いようなときには、周囲の人がまず専門医を訪ねてみるという方法もあります。家族が精神科医に相談をする、上司が産業医のところに相談に行く、というやり方です。

医師としては、本人を診察しなければ具体的な状況はわかりませんから、病状を説明したり、薬を出したりすることはできませんが、大筋としての考え方を話したり、とりあえずどんな対処策が考えられるかなどについて相談したりすることはできます。ただし、本人が受診しない段階で家族が相談すると医療保険が使えないことがあります。

受診をすすめるタイミング

精神的につらそうだったり、身の回りのことがうまくいかなくなってしまっているときは、自分たちだけでなんとかしようとせずに医師への受診をすすめましょう。

職場でも家庭でも、患者さんの態度やようすに、なにか気になることがあったときに、時間をかけてじっくりと話し合うのはとてもだいじなことです。しかし、原因や理由を探すことにはこだわらないようにしてください。

原因探しを急ぎすぎると、「なぜ?」「どうして?」ということばが増えて、聞く側にそのつもりがなくても、どうしても、問いつめるような責めるようなニュアンスが強くなてしまいます。

それよりも、本人の気持ちや行動のようすをなるべくありのままに聞いていきながら、どのように困っているのか、具体的にはどのような問題があるのか、それをたとえ一時的にでも解決したり緩和したりする方法はなにかないものだろうか、と話し合っていくことのほうがたいせつです。

話していくなかで、本人がつらい気持ちを強めているように感じられことがらたり、仕事や生活上の具体的な事柄で、なかなか思い通りにならないことが起きているようなときには、自分たちだけでなんとかしようとせずに、医療機関への受診をすすめてほしいと思います。

話し合いのなかで見つかった、なにか具体的な問題点や、気がかりな症状と思えるようなことと関連づけながら、一度医師とも話してみてはどうだろうかと提案してみてください。

すると、説得力も増しますし、本人の気持ちも比較的スムーズに流れていくことが多いようです。話していくうちに、「仕事をちゃんとしたいという気持ちはあるのに、朝から午前中にかけて体がいうことをきかないと感じているようだ」ということがだんだんわかってきたとします。

そうしたら、仕事の面でも、あなたの健康という意味でも、いまのような状態は気がかりで心配だとまず伝えたうえで、「ストレスが強くてそんなふうになることもあるらしいから、一皮専門医に話を聞いてみたらどうだろう」という具合にすすめてみましょう。

本人が納得しないままに医療機関を受診しても、なかなかいい結果にはつながりません。急がずに、しんぼう強く、本人とよく話し合ってほしいと思います。

いっぺんに取り返しのつかない状況になることはほとんどない

うつ状態が心配される人と話し合っているときに、こちらがなにかいったことで、相手が動揺したり、傷ついてしまったように感じられることもあるかもしれません。そういうときには、「つらい思いをさせてしまったかな」「どうしてそんなに気持ちが揺れるんだろう」などと、あなたのほうからその気持ちを素直に聞いてみてください。

なにかまずいことをいってしまったかなと感じても、あわてずにフォローすることもできるはずです。自分のことばや考えにとらわれずに、相手の気持ちとペースをだいじにしてください。そのように配慮して、流れのなかでよい方向を見つけていくように心がければ、ひとつのことばやいい方でいっペんに取り返しがつかなくなってしまうようなことには、なかなかならないものです。

お手伝いできることはないかと聞いてみる

手伝えることは、やってあげたほうがいいと思います。ただし、その前に、本人とよく話し合って本人の気持ちやペースを一番に考えていくことが大切です。

うつ病に悩んでいる人に対して、はげましすぎないほうがいい、なんとかしてあげようという気持ちを強く持ちすぎないほうがいいといっても、なにもするな、手伝うなということではありません。

「いまのあなたが心配だ」「手伝えることはできるだけやらせてほしい」というメッセージは、本人にきちんと届けてあげたほうがいいと思います。それをどういうタイミングやいい方で伝えていけばいいかは、状況ふによってさまざまですが、あなたと本人の関係を振り返りながら考えていけば、それなりの方法が見つかるのではないかと思います。

仕事にしても家事にしても、本人は、やらなければという気持ちはあるのにやれないでいるわけですから、だまって手伝ってしまうと、自分うばの持ち場を奪われたような気持ちになってしまうかもしれません。ですからまず、「手伝いたい」という気持ちを伝えましょう。そして、そのメッセージが届いたという手ごたえが感じられたら、なにからどう手をつけていけばいいのか、なるべく具体的に話し合ってみてください。

たとえばうつ状態になっている主婦が、なんとか料理をしようとしてよごもいつもよりすごく時間がかかったり、ふだんはきれい好きなのに汚れた食器がたくさん残っていたりするとします。

このようなときには、夫が片づけを手伝うことで、妻の気持ちが少しらくになるかもしれませんし、たまには家族で外食にしようという提案で、気持ちがやわらぐ妻もいるかもしれません。方法としての「正解」があるわけではありません。その人のペースやふつごうやり方が前とは追ってきたために、実際にどんな不都合が出ているのか、それをどうすれば解決できるのかを、なるべく具体的に考えてみてください。

本人を置き去りにしてまわりの人たちだけでなんとかしてしまおなっとくうとせずに、どういうふうにやり方を変えれば、ともに納得して取り組めるのかを、少し時間がかかっても、話し合ってみてほしいと思います。

とりあえずの答えが見つかったら、しばらくはその方法でやってみましょう。それがうまく行かなくなったら、また話し合えばいいのです。なかなか答えが見つからなくても、そういう話し合いができただけで、本人はずいぶん救われた気持ちになるのではないかと思います。

きのせいではない

うつ状態を強めている人に、具体的になにをどう手伝おうかという話をすると、「私がわるい」「だらしない」「できなくて申しわけない」「だめだ」というような返事がかえってくることもあると思います。

そういうときには、「あなたのせいではない」「気のせいではない」「いまは自分ひとりでなんとかしようとしないほうがいいと思う」ということを伝えてあげてほしいと思います。

できれば、本人の気持ちを正面から打ち消さないで、「とりあえず、こんなやり方を試してみるのはどうだろうー」「これだったら私にもできるので、やってみませんか? 」というようないい方ができれば、なおいいのではないかと思います。

励ましすぎない、焦らない

うつ病の人と上手に好き合うひとつのポイントは「力になりたい」「何かしてあげたい」という気持ちをあまり強く持ちすぎないことです。

自分の身近な人がうつ病だと聞けば、たいていの人は、まず意外に思い、その次に、なんとかならないかと心配するでしょう。目の前に苦しんだり悩んだりしている人がいるときに、なにか手助けをしたい、自分にしてあげられることはないかと考えるのは、自然です。

けれども、うつ病の場合、周囲のそういう気持ちが強すぎると、かえつて本人を困らせてしまうことがあります。それが、よくいわれる「うつ病ははげましてはいけない」ということにもつながります。

うつ病になっていちばんつらいのは本人です。患者さんはもうずいぶん前から、こんなふうではだめだ、なんとかしなければ、もっとがんばらなければと思いながら、それでも気持ちが上向かない、気力がわかない、気分がコントロールできない、体もいうことをきかない、という状自分の身近な人がうつ病だと聞けば、たいていの人は、まず意外に思い、その次に、なんとかならないかと心配するでしょう。

目の前に苦しんだり悩んだりしている人がいるときに、なにか手助けをしたい、自分にしてあげられることはないかと考えるのは、自然です。けれども、うつ病の場合、周囲のそういう気持ちが強すぎると、かえって本人を困らせてしまうことがあります。それが、よくいわれる「うつ病ははげましてはいけない」ということにもつながります。

精神的なエネルギーが低下している状態です。つき上くたんほじゅうまり、ガソリンが極端に減ったまま補充されない自動車のようなもので、ふいくらアクセルを踏んでも車は前に進みません。そこへ、「もうちょっとがんばろうよ」「しっかりして」といわれると、「また心配をかけてしまった」「やっぱりわかってもらえない」とかえってつらくなります。よかれと思って気分転換に誘うことがふたん逆に負担になることもあるので注意しましょう。

この人はいまつらいんだ、なんとかしようとするのに思うようにできないんだ、ということをよく理解してから、もう一度その人を見ていけば、たしかに前とは少しペースやノリが違っていることが、見えてくるのではないかと思います。

そして、相手のペースをだいじにして、なるべく合わせていくようにさえすれば、あとは以前と同じようにつきあっていけばよいのです。うつ病治療のいちばんの原則は「あせらない」ことです。いっぺんによくなると期待せずに、ひとつひとつ問題を解決していくのです。

ですから、うつ病を周囲からサポートする際には、「どうにかしてあげたい」「なんとかしてやりたい」という気持ちをあまり前面に出しすぎずに、じょうずにコントロールしながらつきあっていくということが大きなポイントになります。

なるべくいつも通りに接する

うつ病の患者さんだからといって腫れ物にさわるような特別扱いはしないほうがいいのです。いつも通りの自然な態度であたたかく見守りましょう

家族や友人、会社の同僚など、身近な人がうつ病になつたり、うつ状態が気になつているようなときに、周囲の人はどのようにつきあっていけばいいのでしょうか。家族や会社の上司などからこのような相談を受けたとき、私は次の5点に整理して話しています。

  1. 必要以上に気をつかいすぎない(いつも通りに)
  2. 誤解を解く(気のせいではない)
  3. 患者さんのペースをたいせつに(はげまさない)
  4. 問題点を明確に(問題解決の方向で話し合う)
  5. 薬をじょうずに利用するように助言する

「うつ病ははげましてはいけない」ということがアドバイスとしてよくいわれます。その通りなのですが、私は同じくらいに、「いつも通りに接する」ということがたいせつだと考えています。

相手が精神的な問題を抱えているからといって、あまり神経質になることはありません。心カカ配しすぎずに、なるべく自然に、自由な気持ちで接してあげてください。

そのほうが、いろいろなことともよく見えてきます。うつ病の人は、閉じこもりぎみになったり、行動が鈍くなったり、考え方が狭くなったりしますが、まわりが見えていないわけではありません。

ある意味で、まわりの人たちの言動や気持ちに、ふだん以上に敏感になっているともいえますから、あまり神経質な態度をとられると、「自分はそんなにたいへんな病気なんだろうか」「また迷惑をかけてしまつた」などと不安やうつ的な気分を強めてしまうこともあります。

そういう意味でも、とくに家族は、できるだけいつも通りにふれあっていってほしいと思います。気になることがあれば、変に遠慮せずに話したほうがいいと思います。

困ったことがあれば、そのつど話し合いながら、解決方法を考えていきます。もちろん、注意点やポイントのようなものもいくつかあります。なかでも主要なことはこれから順番に説明していきます。ただ、いちばんだかまいじなのは、なるべくゆったりと構えて、目をそらさずに、自然な気持ちで本人と向き合っていくことだと私は思います。

治療の足を引っ張らない

うつ病治療中の患者さんを周囲で見守る人たちに、私がぜひいいたいことのひとつは、「治療の足を引っ張るようなことはしないでください」ということです。

これはとくに薬についてです。うつ病治療中の患者さんに、「そんな薬を飲むな」とか、ちょっと症状がよくなると「いつまでも薬に頼ってちゃだめだ」などという人がとても多いのです。

現在の抗うつ薬は、依存や中毒という面での問題もほぼありません。現在、いちばんつらいのは患者さんです。医師は、そのつらい症状をやわらげようとして、患者さんの現状や副作用のことも考えながら、薬を処方しています。もしも、本人に薬についての迷いが感じられるのならば、「やめろ」ではなく、「もう一度医師と相談してみては」といってあげてほしいと思います。